ベンチャー企業の聖地、シリコンバレーには、「世界を変えよう」と様々なアイディアをひっさげた20代~30代の若きドリーマー達が集まってくる。毎日のように尖ったビジネスプランが生まれては消えてゆく。60歳を前にしたインポッシブルフーズ社の創立者、パトリック・ブラウン氏は2011年、まだ当時話題になっていなかった「植物由来代替肉」を掲げ起業した。 ブラウン氏は、スタンフォード大学で生物名誉教授として長年勤めていた。これまで生科学者、研究者として数々の賞を受賞し、輝かしいキャリアを持つ。名門、スタンフォード大学の教授と言えばまさに夢の職業。高所得で充実したラボで自由に研究ができる。もちろんリッチな老後生活も約束されている。 しかしブラウン氏は、その安定した生活を蹴って「自分が果たすべき使命がある」とリスクを伴うスタートアップを立ち上げた。残りの人生を賭けてのポリシーは一つだけーー「気候変動から地球を守りたい」。 それは生科学者としての使命だった。「もし全人類が肉中心の食生活をすれば、地球は三つでも足りない」とブラウン氏は言う。ブラウン氏が目標とするのは、狭い土地や施設に何千頭の家畜を押し込め人工飼料で強制成長させる「工業的畜産」の根絶だ。この畜産法は環境だけでは無く人間の健康にも被害を及ぼすという。また、一頭の牛から得られる動物性タンパク質は僅かで効率が悪い。この悪循環から脱却するには、肉食人口を減らす必要があるが、そのためには、肉同様に美味しく栄養価の高い代替肉を作るしかない。そう考えたブラウン氏は、植物を原料にした「肉」の開発に全身全霊で挑んだ。

 ブラウン氏がこれまで培った生化学の知識と研究心が「ヘムの発見」というミラクルを起こした。ヘムとは、大豆根粒の中に含まれるレグヘモグロビンで、鉄分を含むタンパク質だ。生化学と遺伝子工学を駆使し抽出した「ヘム」を原料に代替肉の血液に相当する化合物を開発したのだ。生肉赤身の特徴を再現できる色素は、ヘモグロビンに見られる細胞で、生だと赤、焼くと茶色になり、味も微量の鉄分を含む肉らしい味わいの魔法の液体だ。しかしヘムは大量の原料に対し僅かしか抽出できない為、ヘムを培養をさせる技術も進化させている。 同社の戦略プランは、まずアメリカの国民食であるハンバーガーを代替肉に替える事。「South Florida Reporter」によれば、一年に全米で平均約500億個のハンバーガーが食べられているという。その全て、せめて半数でも植物由来代替肉に代える事ができれば、環境改善に大きなインパクトを与え、肉食依存の人たちの健康改善にもつながると考えている。 インポッシブルフーズ社は去年、食品生化学の集大成とも言える「impossible burger2.0」 を発売した。進化した代替肉はさらに肉味に近く食感もふくよかでジューシーだと評価が高い。しかもグルテンフリーなので、さらなる市場を取り込みそうだ。

 一方、ロサンゼルスに本社を置く「ビヨンドミート」は、2009年、再生エネルギーエンジニアとして従事していたイーサン・ブラウン氏が起業した。同社は、去年5月に株式を上場し、初日に時価総額38億ドル(約4000億円)をつけるなどして、飛躍的なシェアを国内外に広めている。両創業者の環境問題に取り組む使命感は一致しているが、決定的な違いは、市場戦略と食材にある。 「ビヨンドミート」の戦略は、2013年、米国最大手自然食品系スーパーの「ホールフーズ」からスタートした。ターゲットは環境、健康意識が高い消費者だったが、徐々に消費者のニーズが多様化したことから、現在では一般大型スーパーやファミレスにも参入。代替肉ハンバーガー、チキンナゲットをファストフード店にも供給し、海外進出を果たして世界市場を見据えた快進撃を続けている。 一方、「インポッシブル」は初年度に200億円、これまでに約1,500億円の投資を集めている。商品デビューは2016年。サンフランシスコ、ニューヨークのエッジーなレストラン6軒から始まった。斬新なバーガーメニューとポップな宣伝イメージは、たちまち若者を中心にSNSで盛り上がった。2017には巨大な工場がオークランドに建設され供給量は一気に拡大。2019年、「バーガーキング」の「インポッシブル・ワッパーバーガー」発売を皮切りに、今年は食品店の小売りも始まった。アジア方面の海外進出も果たしている。 一見同じように見えるバーガーパテ。しかし決定的な特徴の違いは代替肉の要でもある生肉のような色素と肉汁もどきを再現する「赤い液体」にある。「ビヨンドミート」はビーツを使用し、「インポッシブルフーズ」は、前述したヘムを使用している。主原料の非遺伝子組み換えにこだわる「ビヨンド」に対して、「インポッシブル」は分子レベルの加工技術を特徴としている。 両社は代替ビーフに続き、代替ポークも開発。中南米、アジアメニューにも販売領域を拡散している。「ビヨンドミート」は、ケンタッキーフライドチキンとタッグを組み、代替チキンも供給している。一方、「インポッシブルフーズ」では、前人未到の代替魚を開発中というニュースが話題になっている。 これはまさに食革命だ。環境、健康、そして食べ物を超えて思想、宗教にもつながる新時代の食習慣となり得る。規模や業種は違えど、まるで「世界を変えよう」と同時期に出現したビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスの再来のようだと興奮しているのは、私だけではないはずだ。 代替肉ムーブメントの影響でアメリカでは、この2年で約100社以上がこの業界に参入しており、それは世界に波及している。もちろん日本も例外ではない。私達が選ぶ食品が、「地球を救う」根源となり、代替肉はこれから世界的に大きなうねりを起こすのではないだろうか。

 米国のベンチャーはすごい。あっという間に世界を変えれるのは投資家の存在だろう。日本はすべて大会社で行われるため、速度が遅くついていけない。組織の弊害が大きい。もう大量生産向きの組織はやめたらどうだろう?

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